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格安手数料を売り物にする証券会社は、取引一件当たり二五○○円、一五○○円といった自由化前の固定手数料の三分の一から一○分の一という価格設定で競争に挑んだ。 ついには、手数料五○○円という証券会社やキャンペーン期間中は手数料無料という例まで現れた。

これに対して、収益悪化を恐れる大手、準大手など既存の証券会社は、手数料引き下げ競争には一定の距離を置きつつ、店舗での投資アドバイス・サービスの強化やオンライン取引サービスの充実に乗り出した。 手数料自由化後、わが国におけるネット証券取引は順調に拡大した。
二○○二年六月時点で、ネット取引サービスを提供する証券会社は五七社、ネット取引口座数は累計三三二万口座となっている。 四年前の一九九八年六月当時は、一四社、一万三○○○口座にすぎなかったのだから、いかに急成長を遂げたかは明白であろう。
二○○二年四月から一○月までの半年間でインターネットを通じた個人の株式売買代金は一四兆六○○○億円に達し、個人の株式売買全体の五○・七%を占めた(411)。 しかも、これが売買金額ベースの数字であることは注目に値する。
ネット証券取引の利用者は、三○代、四○代の比較的若い世代が中心で、一回に売買する金額はそれほど大きくない。 だが、クリック一つで発注できるという手軽さから、売買回数が電話や店頭での取引に比べて多くなりがちである。
したがって、はっきりした統計はないものの、取引件数ベースでは、個人による株式売買の半分を大きく上回る部分が、インターネット経由となっているものと考えられる。 米国同様、ネット取引は、個人投資家の間で完全に定着したと言ってよい。
ところが、ネット専業証券会社の経営状況は、必ずしも楽観できるものではない。 ネット専業証券会社としては、M証券、E(E証券の親会社)、M証券の三社が株式を公開してきたが、このうちM証券は通期では赤字決算が続いている。
早くも業界再編の動きも表れており、日本オンライン証券とイー・ウィング証券、日興ビーンズ証券とインターネット・トレーディング証券、M証券とセゾン証券、と専業証券会社同士の合併が進んだ。 二○○一年以降、ウィットキャピタル証券、ソンエテ・ジェネラル証券、東京海上シュワブ証券、ビーエヌピーパリバ証券など、外資系ネット専業証券会社の撤退も相次いだ。

ネット専業証券会社の業績が振るわない最大の理由は、株式相場と取引高の低迷である。 手数料完全自由化が実施された一九九九年一○月以降、しばらくはネットバブルが続き、ネット専業証券会社の未来も明るく見えた。
しかし、ネットバブル崩壊後は、IT産業急成長の波に乗ってネット専業証券会社も業容を拡大するというバラ色のシナリオは、現実味を失った。 それに加えて、価格破壊が一挙に進行して手数料の水準が下がりすぎたという事情もある。
手数料自由化前、手数料の採算ラインは、取引量にもよるものの、一件当たり三○○○円程度とみられていた。 ところが、自由化がまだ実施されない段階で、DLJディレクトSFG証券が、売買代金一○○○万円までの成り行き注文を一律一九○○円という手数料設定を発表したのをきっかけに、想定された採算ラインをはるかに下回る手数料水準が定着してしまった。
ちなみに、このDLJの手数料は、売買代金一○○○万円の場合、固定手数料に比べて約九八%の引き下げであった。 わが国よりも株式市場の売買規模がはるかに大きく、規模の利益が働きやすい米国ですら、既に触れたように、ネット専業証券会社の手数料は取引一件当たり二○ドル(約二四○○円)程度である。
価格破壊の行き過ぎは明らかだろう。 それにしても、手数料の価格破壊にさらされたという経営環境は、既存の証券会社も同じである。
むしろ、ネット専業証券会社にシェアを食われて苦しい立場にあり、準大手以下、赤字決算に陥る証券会社が多い。 とはいえ、ここ数年は経営破綻や自主廃業にまで追い込まれた例は珍しい。
なぜネット専業証券会社だけが合併や撤退のやむなきに至ったのだろうか。 それは、既存の証券会社は、顧客基盤を押さえているため、苦しいながらも一定の収入が確保されているからである。

これに対して、新規参入の多いネット専業会社は、厳しい環境の中で最低限の顧客基盤を確保することができなかった。 本国での実績や知名度を過信して、日本での成功を夢見た外資系には、とりわけそうした傾向が強い。
しかも、ネット専業は軽装備でコストが低いという想定にも疑問符が付き始めている。 既に、システム開発、維持に伴うコストは大きな負担となっているが、今後、対応を迫られそうなのが、不正取引の防止など、コンブライアンスの面である。
二○○三年四月には、C証券が「なりすまし」の疑いの強い取引に関して、本人確認を行わないまま注文執行したとして、一月に施行されたばかりの本人確認法違反による是正命令という行政処分を受けた。 このケースは、非対面ゆえに人手を要しないというネット専業会社の強みが裏目に出たとみることもできる。
もっとも、厳しい環境の中でも、M、イー・トレード、非上場だが業績を公表しているS、Cなどは黒字を確保している。 その秘密は信用取引にある。
信用サービスが投資家に評価されている証券会社は、営業収益の伸びを確保できているのである。 二○○三年四’六月期にはM証券も、四半期ベースながら創業以来初めて黒字に転じた。
これは株価の回復による営業収益の拡大がもたらした結果だが、株式売買受託金額の三二・八%が二二万に上る顧客口座数の二・一%を占めるにすぎない信用取引口座分となっている。 明らかに二○○二年一二月に開始したばかりの信用取引サービスが、業績の改善をもたらしたのである。
信用取引は、証券会社が顧客に資金や株式を貸し付けて、売買させる取引形態だ。 リスクが大きく投機的とみられることから、既存の大手証券会社などでは、相当な運用資産と投資経験のある顧客にしか認めてこなかった。

これに対して、ネット専業証券会社は、委託保証金率や追加保証金(いわゆる追い証)に関する条件を厳しくしてリスク管理を強化する一方、口座開設基準を緩やかにすることで、今までよりも幅広い層の投資家が参加することを可能にした。 証券会社にとってみれば、信用取引の顧客は、短期的な相場の変動に合わせて売買を繰り返すので手数料を稼ぎやすい。
しかも、信用取引の場合、買い方には信用取引金利、売り方には信用取引貸株料を課すことができるため、売買委託手数料しか収入にならない現物取引よりも収益性が高い。 例えば、M証券の場合、信用取引金利は二・一%、信用取引貸株料は一・一五%(いずれも二○○三年四月一日現在)となっている。
実際、信用取引に力を入れているネット専業証券会社では、信用取引に伴う金融収支が、業績に大きく貢献していることが多い。 ネット専業証券会社が信用取引に注力することは、経営戦略上の一つの判断であり、何ら非難されるべきことではない。
とはいえ、信用取引が、大きなリスクを伴う投機性の強い取引であり、国民の広範な層の資産形成に活用されるべきものではないのも事実である。

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